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LAMを知ろう

Q&A

『LAM Handbook 日本版』より抜粋。 ※無断転載を禁じます
2010年4月加筆・修正

どのようにしてLAMは診断されるのですか?

LAMの病気の現れ方は様々で、診断は時に困難です。E.フォン・シュトッセル(E. von Stossel)が最初に医学誌に記述したのは1937年ですが、この病気は今日でも非常に稀なものです。LAMのことをよく知らない医者も多く、そのため診断されなかったり、間違って他の病気と診断されている場合も少なくありません。診断が難しいことの理由としては、LAMの多くの症状が、喘息、肺気腫、気管支炎などの他の病気の症状と同じであるということがあります。胸部X線は通常LAMの診断には十分ではありません。しかし、高分解能胸部CTスキャン(high-resolution chest CT = HRCT)であれば、LAMに特徴的な嚢胞(のうほう)を確認する事ができ、さらに他の病変(例えば、良性の腎腫瘍、気胸、胸水)があれば、通常LAMと診断できます。場合によっては、正確な診断のためには肺生検が必要でしょう。LAMと診断するのに有効な血液検査はありません。しかし、血液中のVEGF-Dという物質が高値であればLAMである可能性が高く、特徴的な画像や他のLAM関連病変の有無と組み合わせれば診断に有用であると考えられています。

診断が難しいだけでなく、未だにLAMの原因は不明で、確実な治療法もありません。しかし、シロリムス(あるいはラパマイシン)という薬剤がLAMの治療薬として期待され、まもなく国際共同臨床試験の結果が明らかになります。

LAMになると肺に何が起こるのですか?

あなたが呼吸をする時、酸素は肺の中の肺胞と呼ばれる小さな空気の部屋を通って毛細血管に入り、血液の流れに送り込まれます。通常、肺胞はわずか2細胞分の厚さの壁を持っています。しかし、LAM細胞が増殖するにつれ、肺胞の壁は厚くなり、酸素がそこを十分に通ることができなくなります。酸素が血液に送り込まれにくくなると、血液中の酸素濃度が低下します。酸素濃度が低くなると、体の隅々まで酸素を行き渡らすために心臓が余分に働くことになります。また体は、体中に酸素を送るために、赤血球をより多く作り出すことで埋め合わせをしようとします。LAM細胞の増殖は肺の組織をより硬くします。組織の柔軟性が失われることにより、LAMの患者は肺から空気を出すことが困難になります。吸い込んだ空気をうまく吐き出しにくくなることにより息切れを起こします。

さらに、こういった傷害がそれほどでなかったとしても、肺胞の壁が厚くなると肺の組織はさらに破壊され、ブレブと呼ばれる空気の溜った小さな隙間や嚢胞(のうほう)ができることになります。この病気が進行すると、LAM細胞は肺の中でさらに増殖し、嚢胞(のうほう)もさらに多くなります。

どのような症状がありますか?

多くは最初に、呼吸困難(息切れ)、胸の痛み、慢性的な咳、気胸(肺の一部に穴があき、空気が漏れること)、などの肺の症状が出現します。血管筋脂肪腫(AMLs)と呼ばれる良性の腎腫瘍ができたり、乳糜(にゅうび)と呼ばれるミルク状の液体が胸部や腹部に蓄積したりする患者もいます。LAM細胞が肺で増殖して肺の血管を堰き止め、血管が破れると喀血や血痰が出ます。

LAMの患者全員にこれらの症状の全てが見られるわけではありません。およそ3分の2の人は少なくとも片方の肺の気胸を起こし、およそ3分の1の人は胸に液体が漏れる状態(乳糜胸:にゅうびきょう)になります。血管筋脂肪腫(良性の腎腫瘍)は通常無症状ですが、LAMの患者の50%に見つかります。
(注:これらの頻度は欧米LAM患者での頻度です。日本の全国調査の結果では、LAMの診断時には気胸は53%、乳糜胸は7%、血痰は8%、血管筋脂肪腫は27%、にそれぞれ認められたと報告されています)

LAMはどのように進行するのでしょう?

LAMは進行性の病気であることはわかっていますが、その進行のスピードは通常とてもゆっくりで、呼吸機能の変化もわずかです。稀に、早く進行する人もいます。現在、進行の遅い早いを決めるものは何かを突き止めようと研究がなされているところです。進行が遅くても早くても、LAMの患者はいずれは呼吸機能が低下して、ほとんどの患者が在宅酸素療法を行うことになります。多くのケースで、肺移植が最後の手段として考えられます。肺移植によって患者の多くは何年かは寿命を延ばすことはできますが、完全な治療法ではありません。

今後どんなことが期待できますか?

LAMの発症の仕方は様々です。全く症状のない人もいますし、上述したような症状の出る人もいます。以前は、LAMの患者の予後は良くありませんでした。これはLAMと診断されるのが、病状が進行してからだったからです。高分解能胸部CTスキャン(HRCT)などの新たな技術により、もっと早い段階での診断が可能になりました。多くのケースで、関係の無い理由で偶然CTを撮り、LAMが見つかっています。研究者の多くは、症状が軽いので医療機関にかからずLAMと診断されないままの患者がたくさんいるだろうと考えています。

1995年から、国立心肺血液研究所(the National Heart, Lung, and Blood Institute:NHLBI)と国立衛生研究所 (National Institutes of Health : NIH)のLAMプロトコールによってLAMの患者の調査が行われています。この研究ではLAMの進行が患者によってどうして違うのか突き止めようとしています。多くのLAMの患者は以前考えられていたよりずっと長生きをしています。忘れないで下さい。進行の度合いと症状の範囲は患者によってかなり異なる可能性がある、いや異なるのです。

LAMの多くの疑問にまだ答えが出てはいませんが、驚くような研究の進展もあり、将来LAMの治療、治癒が現実になるかも知れません。

どのようにLAMは治療されるのですか?

LAMは女性、特に生殖年齢の女性に発症するので、エストロゲンというホルモンが生殖年齢の女性の子宮における平滑筋の増殖に関係しているように、LAM細胞の異常な増殖にも関係しているのではないかと考えられています。最近では、エストロゲンがLAM細胞や腎血管筋脂肪腫細胞の増殖を促進したり、ある種の機能を亢進させることが明らかにされ、またそのメカニズムについても少しずつ解き明かされてきています。

LAMに対する多くの治療はエストロゲンの産生、及び、その影響を抑えるものです。LAMの患者が避妊用ピルを使わないようにアドバイスされるのは、このためです。子どもを産むことにより、病気が悪くなるという確たる証拠はありませんが、出産を契機にLAMの症状が悪化したという症例報告はたくさんあります。そのために、病気を進行させる可能性があるという理由で、妊娠をしないように勧める医者もいます。

最近20年間で一般的に用いられてきた治療法は二通りありますが、それは、体内の主要なエストロゲン産生を止めるための、合成プロゲステロンホルモン製剤であるメドロキシプロゲステロンの投与、並びに/あるいは卵巣摘出です。どちらの治療法も科学的に立証はされていません。科学的に有効とは証明されていないため、手術の危険性や将来骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や心疾患になる危険を考えると、最近では卵巣除去は勧められなくなりました。
(注:米国で使用されるメドロキシプロゲステロンは日本にはない薬です。そのため、日本では病気の重いLAMの患者さんで治療を必要とする場合には、GnRH(ゴナドトロピン放出刺激ホルモン誘導体)が投与されています。有効性が科学的に立証されているわけではありませんが、専門医の中には病状を安定化させる効果があると考えているものもいます)

しかし、すべてのLAM患者に有効な治療法は何も発見されていませんが、治療法の臨床試験は進行中です。これら可能性のある治療に挑戦する前に、あなたがかかっている医師に、現在の状況をLAM財団 に相談してみるよう、頼まれることをお勧めします。LAM財団はあなたとあなたの主治医に現在行われている研究の状況について教えてくれるでしょう。誰しも、ほとんどの医者がもはや有効ではないと認めているような治療を受けたくはない筈です。LAM財団によるこれまでの研究は将来への希望に繋がる結果を生んでおり、今後も絶え間ない献身的な研究が続いていくことでしょう。

どのような研究がなされているのですか?

わずか10年前に比べて飛躍的に多くのことを、私たちはLAMについて知っています!LAM財団は、LAMの原因を調べ、治療法をみつける研究に資金を提供してきました。ペンシルヴァニア州フィラデルフィアのフォックス・チェイス癌センター(Fox Chase Cancer Center)のエリザベス・ヘンスケ博士 (Dr. Elizabeth Henske) はLAM及び結節性硬化症の研究を行っていますが、2000年に、TSC2遺伝子(結節性硬化症を起こす二つの遺伝子のうちの一つ)の突然変異がLAM細胞に見られる、つまりLAMはこの遺伝子の突然変異で起こると見受けられる事を発見しました。

結節性硬化症(TS:注)は遺伝性の神経疾患でLAMとの関連性が指摘されてきました。最近の調査では、女性のTSの患者の約40%に肺のLAMが見つかりました。LAMではあるけれどもTSの無い場合をsporadic LAM(孤発性LAM)と言います。今のところ、sporadic LAMは遺伝しないと考えられています。sporadic LAMが母親から娘に遺伝したという報告はありません。sporadic LAMの患者とTSの患者の肺や腎臓の病変が似ていることに研究者たちは興味を持っています。

ヘンスケ博士の研究に加えて、最近、細胞増殖の経路と制御の理解に関して急速な進展がありました。TSとLAMの両方で、TSC1遺伝子(第9染色体上にある)かTSC2遺伝子(第16染色体上にある)のどちらかの遺伝子に欠陥が見られます。この欠陥を持った遺伝子はTSの患者の体のすべての細胞に存在し、体全体にTSの様々な兆候が現れるようになります。このような研究の進歩によりTSC1(ハマルチンというタンパク質を作る)やTSC2(ツベリンというタンパク質を作る)の突然変異がLAM細胞の無秩序な増殖を促すことが証明されました。

免疫抑制剤ラパマイシンはハマルチンやツベリンと同じような作用があり、LAM細胞の増殖や分裂にブレーキをかけて正常細胞と同じようなレベルに回復させる可能性があります。この作用は、アメリカで2003年に始まったラパマイシンの治療研究の基礎となっています。

LAMに関して不明な点の一つに、この病気が体のある一カ所で発生し、その後、他の場所に広がるのか(転移理論)、あるいは数カ所で各々個別に発生するのか、ということがあります。肺移植を受けた患者で、ドナーではなくレシピエントのLAM細胞がドナーの肺から見つかることがあります。この発見はLAMの転移理論を支持しています。もし、LAM細胞に転移する性質があるのなら、治療は初期に転移を防ぐことに主眼を置くものになります。
(注) 訳者注:現在では結節性硬化症はtuberous sclerosis complex と英語では呼ばれ、TSCと略されるのが一般的ですが、本書では原文のままTSの略語で統一します。


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